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イギリスの食

面白い本を読みました。というかレシピ本なんだけど、「Century of British Cooking」という本です。20世紀を10年ごとに区切り、その時代に人気があった食べ物、食文化を紹介する、というもので、1900年から1999年までの、イギリス食の文化史、という感じかな。レシピが主で、文化、風俗、食文化に関しては触り程度だったけど、それでもかなり新鮮でした。

「イギリス料理はまずい」というのはほぼ世界の常識なんだけど、私に言わせれば「イギリス料理はおいしい、でもイギリス人は料理の仕方を知らない」が正しいです。
ブログでも何回か言及したかな?こっちのゆで野菜は、フォークの背でつぶせるほど柔らかくないとダメ。昔、お母さんから「ブロッコリーはお湯に入れて色が変わったら出来上がり!」って言われなかった?私がソレをやったら、だんなはまず野菜を食べない。「うさぎじゃない」とかのたまう。だけどゆですぎると栄養が抜けるので、ゆでたり蒸したりするときは、ものすごーく気を使う。

で、この本によると、ある人気料理家が1850年ごろに出版した本の中で、‘最近野菜の歯ごたえを残すゆで方がはやっていますが、それでは消化しにくいですし、野菜本来の味を味わうことができません’とのたまったため、こんなやり方が定着したらしいのだとわかった。別のところでは、コレラがはやったときに、国が野菜をくたくたになるまでゆがくことを推奨したため、というのを読んだんだけど、まぁこの辺が原因だね。

で、私はなんとなく、ヒッピー世代、ウーマンリブの世代の連中が、「女性解放!」「戦争反対!」って叫びながら台所を放棄し、やがて職場に出て行って、そこで食文化が一度途切れたのでは、と思ってたんだけどね。
イギリスは第一次、二次大戦ともに本格的な戦闘を繰り返したわけなんだけど、そのおかげで1918年から21年まで、そのあともう一度1940年から1954年まで、食料は配給制度だったんだって。ということは、一世代、二世代は少なくとも、「ふつうの家庭料理を知らない世代」があるんだよ。それでその世代とその子供がそのまま、「レンジでチン」の時代に突入するんで、そこで食文化の断絶があったわけではないか、と思う。
この本の著者は、2次大戦中に料理研究家として「配給された食糧で栄養価の高い食事を作る」ことを研究、デモンストレーションし、戦後も各地での講演、TV出演をしてきた方だそうで、彼女によると、1950年代ごろには若い世代が家庭を持ち始めたにもかかわらず、小さなころの食糧事情から料理の基礎がわからない、という声をよく聞いたんだそうです。そのため、全国で料理講座を開いたりしていたんだって。へえええ!

それで、イギリスの配給制度なんだけど、もう一度年代をよく見てほしい。1940年から1954年まで。2次大戦はいつ終わった?
1945年。
戦争が終わってから9年間、配給が続いたんだって・・・もちろん、段階的に解除されていって、チーズやお肉、そして最後にバナナの配給が終わったのが54年、ということなんだけど、昔聴講していた国際関係学の教授が、「ドイツはイギリスより早く配給が終わった」といったのをよく覚えてます。案の定、食料は戦争で疲弊したヨーロッパに送れ、ということでイギリス人が迷惑をこうむったようです、ウィキペディアによれば。まぁ、戦勝国の面子にかけて、西ドイツやフランスを全力、最短で復興させたかったんだろうけど。

紅茶は52年、53年の終わりに砂糖と卵の配給が終わったそうです。紅茶か・・・日本で緑茶やほうじ茶が10年も配給になるの、想像できる?
驚いたのが、じゃがいも(イギリスでは主食代わり)は戦争後の47年に配給制度が始まった、ということ。なんでも、その年の冬はあまりに厳しく、春収穫するための種いもを植えることができなかったそうで。ひゃーーー。パンも、戦後に配給制度に入ったらしい。それでも50年代が来る前にははずれたらしいけど。

うちのだんなの母親が、若いころにトマトを買ったら、だんなの祖母に怒られたんだって。「もったいない!」って。このイギリスの配給事情を見ると、つい「もったいない」って思ってしまう背景がわかるような気がする。
イギリスで家庭菜園が盛んなのも、まぁもちろん昔から盛んだったんだけど、特に戦争中に政府が推奨した、という背景もあるみたい。そのころは公園なんかも畑地として転用し、市民に貸し出したりしていたらしいです。

ほかの国の配給事情と比べてみたくて、少しネットを検索したんだけど、あまり出てきませんでした。残念。

それから、イギリス人と卵とサルモネラ菌について。
イギリスに来たころから、イギリス人がやたら「生卵は危ないから」「サルモネラが」というのはわかっていて、なんで日本とイギリスと、こんなに対応が違うんだろう、と思ってたんだよね。

この本によると、ある食料担当の大臣が1988年に、「イギリスで流通している卵の一部分はサルモネラ菌を持っている」と言っちゃったらしいんだよ。しかも12月、クリスマスの直前。その発言から2週間ほどで、乾燥卵(戦争中の定番)が復活し、卵の売り上げは激減、業界は大きな打撃を受けて(クリスマス前は稼ぎ時だからね)、その大臣は辞職したんだって。

まぁ、言ってることは間違ってないんだけど、言い方が悪かったんだろうね。それでそのあと、レシピ本には必ず「赤ちゃん、子供、妊婦、体の具合の悪い人、お年寄りにきちんと火の通っていない卵を使った料理を出すのは避けましょう」って注意書きがしてある。日本料理店に行って、月見うどんを頼んでも、卵はガッチガチに固まってます。
一応、卵の産地がわかっていて、ものすごく新鮮であれば・・・とも言うんだけどね。
そのわりには、トーストを棒状にスライスして、半熟卵をつけながら食べるのはイギリスの家庭の伝統的なファストフードだったりするんだが。

長くなってきたんでこの辺でやめますが、イギリスの食卓、文化の変遷がわかってとても面白かったです。日本にもこういう本があればいいのに、と思ったのでありました。
by yuka_helix | 2008-04-04 18:41 |